話し言葉のお話 合拗音

このシリーズの最後です。

音に少しだけ敏感なわたしは、けっこう耳に残っている音というのが
あります。

これまで数回のこのシリーズで紹介しましたが、最後にこの「合拗音」で
締めたいとおもいます。


昨年の2月に、101歳の伯母が大往生しました。これは記事にしていますので
ごらんください。

亡くなる以前から、親戚の会合などで幾度となく会い、あるいは電話で話をするたびに
私の耳に残るのが、この合拗音。

たとえば、火事が「くゎじ」に聞こえ、菓子は「くゎし」となります。


その伯母のすぐ下の妹は学校の教師をしていた関係からか、この合拗音を
発していた記憶はほとんどありません。


二人の伯母の下に私の父がいて、会議を「くゎいぎ」といったり、観光バスを
「くゎんこうばす」といったりしていた記憶がかすかにありますが、
きっすいの江戸っ子を嫁にもらった手前、さすがにかなりあやしい
出雲弁になっていたようにおもいます。

その点、長女である伯母は101歳で亡くなるまで言語活動を妨害されることのない
恵まれた環境だったようで、混ざり気のないピュアーな出雲弁をのびのびと
巧みに操っていました。

その娘、つまりわたしの従姉妹は福山に少し住み、その後名古屋に長く
住んでいますが、なぜかいまだに伯母の再来かとおもわせるほどの
流ちょうな出雲弁の使い手です。
完璧な合拗音を母親から引き継ぎ、名古屋というまったく異質な方言の
荒海にもまれてもなおかつ保持しているのは、ある意味奇跡です。
言葉もひとつの文化と考えると、実に貴重な存在です。


さて、話をもとにもどしましょう。

合拗音をインターネットで調べると、近世までの日本語では「か・が」と
「くゎ・ぐゎ」は完全の別の音韻で、語によってどちらであるかが決まって
いたとのこと。

出典は「か・が←→くゎ・ぐゎ(直音対合拗音)分類表」です。
  http://www.akenotsuki.com/kyookotoba/shiryoo/kakwagagwa.html


少し長くなりますが、例が示してありますので、その一部を掲載しておきます。

「か」  下/加/可/河/荷/歌/仮/暇/価/夏/家など
「くゎ」  化/花/貨/靴/火/科/果/菓/課/華/過など

「が」  牙/芽/雅/我/蛾/餓/賀など
「ぐゎ」  瓦/画など

「かい」  介/界/械/改/皆/階/開/解/海など
「くゎい」  会/絵/回/灰/快/怪など

「がい」  亥/劾/咳/外/害/崖/涯/街/概など
「ぐゎい」  外

「かく」   各/客/格/閣/角/脚/革/核/殻など
「くゎく」   拡/画/獲/穫など

「がく」   学/岳/楽/額など
「ぐゎく」   見あたりません

「かつ」   喝/渇/褐/割など
「くゎつ」   活/闊/滑など

「ぐゎつ」   月

「かん」   刊/汗/肝/幹/甘/看/乾/寒/感/間など
「くゎん」   缶/完/冠/官/管/館/巻/患/換/勧/歓/観/関など

「がん」   含/岸/岩/眼/顔
「ぐゎん」   丸/元/頑/願など


つまり、
歌詞は「かし」で、菓子は「くゎし」
家事は「かじ」で、火事は「くゎじ」
乾燥は「かんそう」で、歓送は「くゎんそう」
感心は「かんしん」であり、関心は「くゎんしん」

という具合に、使い分けていたということですね。


先ほどのインターネットの記事によると、

「合拗音は江戸では衰退が早かったらしく、19世紀初頭にはすでに区別が
なかった。京都でも20世紀初頭までには区別が失われた。一方、大阪、
奈良、和歌山など近畿南部には、20世紀後半になってもまだ区別を残す
話者が存在していた。」

とあります。

つまり、合拗音はいまや絶滅の危機に瀕している音といえるのです。


あらゆる年代に使い手がおり、その数が次第に減ってくるのならなかなか
絶滅しないでしょうが、使い手はすべて高齢者ですから、もう何年か、
何十年かすると、突然日本中から合拗音が消えることになります。

いったん消えたら再現は不可能でしょう。

しかるべき機関や大学が各地に出かけて録音の作業はなされているとは
おもいますが、ひょっとしたら、すでに今の段階でも、合拗音を流ちょうに
使いきる完全な話者は日本中どこにもいないかもしれません。

ひとつの文化がいま消え去ろうとしていることに、少しかんしんを、
いや、くゎんしんをもっていただくとありがたいとおもいます。


参考までに、1966年(昭和41年)当時の言語地図にリンクを貼っておきます。
これは、「火事」をどう発音するかを調べてそのちがいを日本地図に落とした
ものです。

火事の発音の全国分布図です。



にほんブログ村 シニア日記ブログ 男性シニアへ
にほんブログ村へ
にほんブログ村 写真ブログ ネイチャーフォトへ
にほんブログ村へ
にほんブログ村 教育ブログ 理科教育へ
にほんブログ村へ


※関心をおもちになったら下の「拍手」を
ポチッとおねがいします。励みになります。

スポンサーサイト

この記事へのコメント

管理人のみ通知 :

トラックバック


プロフィール

スクーティスト

Author:スクーティスト
ブログ「スクーターで撮り歩き」にようこそ。
「ラボ・オルカ」、「スタジオ・オルカ フォトギャラリー」、
「広島干潟生物研究会」にもどうぞお越しください。

ようこそ SCOOTIST です
ようこそ、SCOOTIST です。

時々、ビッグスクーターにまたがって、中・四国の自然にひたりに出かけます。
小さな生き物たちの息吹が伝わったら幸いです。
日常のできごとも気ままに書いていきます。

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの閲覧者数
検索フォーム
ご意見・ご感想を
中・四国の自然や生き物情報、ドライブ情報もおまちしています。 ここにお書きになった内容は公開されません。

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR